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墓じまい

嫁いだ娘も実家の墓を継げる|祭祀承継の決まり方と継がない選択肢【2026年版】

|16分で読めます
午後の光が差す霊園の通路と、水桶と白菊が供えられた実家の区画|嫁いだ娘と実家のお墓

「実家のお墓を継ぎたい。でも私は嫁いで姓が変わっている」——このとき多くの方が、親族や知人から一度は言われます。「嫁に出た娘は継げない」と。

結論から書きます。お墓を継ぐことについて、民法にも、東京都が定める霊園の条例にも、氏・性別・長男といった条件は出てきません。どちらにも書かれている要件はただ一つ「祖先の祭祀を主宰する者かどうか」です。「嫁いだ娘は継げない」は、法律の話ではなく慣習の話で、しかもその慣習は1947年に廃止された家督相続を引きずったものです。

ただし、「法律上できる」と「実際にすんなり進む」は別です。この記事では条文を一つずつ開いて、どこまでが法律の問題で、どこからが墓地ごとの規約と家族の話し合いの問題なのかを分けて整理します。継がない場合の選択肢も同じ重さで扱います。

「嫁いだ娘は継げない」は誤解——条文に姓も性別も出てこない

まず、いちばん誤解されやすい点から。お墓の承継は「相続」とは別枠の制度です。預貯金や不動産のように法定相続分で分けるものではなく、民法が相続とは切り離して定めています。

そして「長男が継ぐもの」という感覚の出どころは、1947年(昭和22年)に廃止された家督相続です。戸主の地位と財産を原則として長男が単独で引き継ぐ、という戦前の制度でした。現在の民法にこの仕組みはありません。祖父母や親の世代が「うちは長男が」と言うとき、それは悪意ではなく、廃止から80年近く経ってもなお生活実感として残っている当時の常識です。

裏を返すと、反対されているのは「あなた」ではなく「順番」であることが多いということでもあります。ここを分けて受け止められると、次の話し合いがずいぶん楽になります。実家に自分しかきょうだいがいない場合の考え方は一人っ子が実家のお墓を引き継ぐときの選択肢でも整理しています。

誰が継ぐかはどう決まるか——民法897条を条文のまま読む

お墓の承継を定めているのは民法第897条(祭祀に関する権利の承継)です。解説記事では「指定 → 慣習 → 家庭裁判所の順で決まる」とだけ書かれることが多いのですが、条文そのものはこう書かれています(e-Gov法令検索の現行条文)。

第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

読むと分かるとおり、条文の本文は「慣習」で、「指定」はただし書きの側です。それでも実務で「①指定 → ②慣習 → ③家庭裁判所」の順に説明されるのは、ただし書きが本文の例外を定めるものだからです。被相続人の指定があれば、その場合について本文(慣習)の適用が外れます。第2項も「前項本文の場合において」と書いていて、家庭裁判所が出てくるのは指定がないときに限られます。条文がこの順に並んでいるわけではありません。

そのうえで、この条文について押さえておきたいことが3つあります。

  1. 氏・性別・続柄の条件が一つも書かれていない。条文にあるのは「祖先の祭祀を主宰すべき者」だけです。姓が変わったかどうかは条文の関心事ではありません。
  2. 条文が定めているのは「祖先の祭祀を主宰すべき者」であることだけ。実務では原則として1人が承継すると解されています。いずれにせよ、きょうだいの頭数で決める多数決の制度ではありません。
  3. 「慣習」は地域や家の慣行を指し、「長男が継ぐのが常識」という個人の感覚とは別物です。慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定める、と第2項が受けています。

親族の反対にどう向き合うかは、承継そのものとは別の問題として整理したほうが進みます。反対の理由の型と話の順番は墓じまいに親戚の同意は必要かにまとめています。

「墓を継ぐ」は法的に2つある——墳墓の所有権と、霊園の使用権

ここは混同されやすい部分です。「お墓を継ぐ」と一言で言っても、法的には別々の2つを引き継いでいます。

引き継ぐもの

根拠

中身

墳墓の所有権(系譜・祭具も含む)

民法897条

墓石そのもの、位牌や仏壇などの祭具、家系図など。祭祀を主宰する者が承継する

墓地区画の使用権

霊園・寺院の条例や使用規則

その区画を使い続ける権利。公営なら条例、民営・寺院なら使用規則が定める。所有権ではない

つまり、民法897条をクリアしても、それだけで区画を使い続けられるわけではありません。墓地の側の名義変更(承継の手続き)が別に要ります。逆に、区画の名義さえ変えれば済むわけでもありません。この2つを分けて考えると、次の「施設ごとに条件が違う」という話が理解しやすくなります。

公営・民営・寺院で条件が違う——都立霊園の条文で確かめる

使用権の承継条件は、墓地の運営主体によって変わります。ここでは条文を公開している東京都立霊園を例に、実際に何が要件として書かれているかを見てみます。

東京都霊園条例 第19条(使用者の地位の承継)は、こう定めています。

埋蔵施設又は収蔵施設の使用者の死亡その他規則で定める場合において、当該使用者に代わって当該施設を引き続き使用しようとする者は、当該使用者の地位を承継することができる。ただし、埋蔵施設、長期収蔵施設又は短期収蔵施設の使用者の地位を承継しようとする者は、祖先の祭祀を主宰する者でなければならない。

要件として書かれているのは、「祖先の祭祀を主宰する者であること」だけです。氏が同じであること、親族の範囲、性別、続柄——いずれも条文にありません。民法897条と同じ「祖先の祭祀を主宰する」という基準で受けています。

さらに、東京都霊園条例施行規則 第17条は「使用者の死亡以外に承継できる場合」を列挙していますが、その第一号から第三号がいずれもこう始まります。

一 婚姻又は養子縁組により氏を改めた者が使用者であって、その者が離婚し、又は離縁したとき。
二 婚姻により氏を改めた者が使用者であって、配偶者の死亡により、その者が婚姻前の氏に復し、又は姻族関係を終了させたとき。
三 婚姻又は養子縁組により氏を改めた者が使用者であって、その婚姻又は養子縁組が取り消されたとき。

つまり都の規則は、婚姻で氏を改めた人が使用者であることを、当然の前提として条文に書いています。「嫁いだ娘は名義人になれない」という前提であれば、こうした条文は成り立ちません。条文は、その使用者が実子か配偶者かを問うてはいません。婚姻で氏を改めた人が使用者である状態そのものを前提にしています。

ただし、これは東京都の条文であって、公営霊園すべてに当てはまるわけではありません。自治体によっては、承継できる人を「戸籍でつながりが確認できる親族」に限り、同意書や家系図の提出を求めているところもあります。公営だから条件がない、とは言えません。

民営霊園と寺院墓地は、さらに事情が異なります。使用規則で承継者を親族に限る例があり、寺院墓地では檀家であること(離檀すれば区画も手放すこと)が前提になっている場合があります。公営で条文にない条件が、民営・寺院では規約にあり得る、ということです。「法律上できる」と「その墓地で認められる」は別なので、必ずその墓地の使用規則を先に確認してください。

承継の手続きと、そのときに要るもの

手続きの名前は施設によって「承継使用申請」「名義変更」などと異なりますが、聞かれることはおおむね共通しています。

確認されること

典型的に求められるもの

注意点

現在の使用者が誰か

使用許可証(民営霊園では「永代使用許可証」と呼ばれることもあります)

紛失していると再交付から始まる。実家の書類の所在は元気なうちに確認しておく

承継する事由が生じたか

使用者の死亡が分かる戸籍など

公営では死亡以外の事由でも承継できる場合が規則に定められている

祖先の祭祀を主宰する者かどうか

申請者と使用者の関係が分かる書類、事情の申立てなど

ここが要件の中心。都立霊園では承継使用申請書に続柄を証明する書類その他「祭祀を主宰する者であることを疎明する書類」を添える、と規則に定めがある(施行規則17条2項)。公営でも、親族であることや同意書を求める自治体がある

手数料

施設の定めによる

東京都立霊園の場合、承継許可に係る使用許可証の交付は一件につき2,000円(東京都霊園条例 別表第四)

よく「親族全員の同意書が必要ですか」と聞かれますが、そこで止めると誤解が残ります。求められているのは同意書そのものではなく、あなたが祭祀を主宰する者だと施設が確認できることです。とはいえ、きょうだいや親族が別の意見を持っている状態で名義だけ先に変えると、後の話し合いが難しくなります。書類として要るかどうかと、先に話しておいたほうがよいかどうかは、別の判断です。

なお、遺骨を別の場所へ移す場合は承継とは別に改葬の手続きが要ります。厚生労働省は「埋葬、火葬又は改葬を行おうとする者は、市町村長の許可を受けなければならない」としています。許可を出すのはいま遺骨がある墓地の所在地の市区町村長(東京23区は区長)で、移転先の自治体ではありません。流れは墓じまいの手続きの進め方改葬許可申請書の書き方で確認できます。

「継ぐ」以外の選択肢——継がないことも選択肢のひとつ

継げるかどうかを確かめたうえで、継がないと決めることも、同じだけ正当な選択です。実家が遠い、自分の代で終わりにしたい、嫁ぎ先のお墓と両方は負担が大きい——いずれも現実的な理由です。

選択肢を「いくらかかるか」ではなく「誰に手続きと負担がいくか」で並べると、家族で話しやすくなります。

選択肢

主な手続き

誰に負担・判断がいくか

費用の詳細

自分が承継する

名義変更(承継使用申請)+祭祀主宰者であることの疎明

承継者に管理料と、将来もう一度誰かへ渡す責任

管理料が中心

墓じまいをする

改葬許可(市町村長)+墓地使用者の承諾+石材店の工事

現使用者の承諾が要る。工事と寺院への挨拶は自分側

墓じまいの費用

永代供養へ移す

改葬+受け入れ先との契約

移した後の管理は施設側へ。初期費用は移転先しだい

永代供養の費用

実家と嫁ぎ先をまとめる

双方の墓地規則の確認+改葬

双方の親族の合意が要る。調整に最も時間がかかる

金額はこの記事では扱わず、検証済みの費用ページに集約しています。永代供養そのものの仕組みは永代供養とは何かを先に読むと、比較の土台が揃います。

「継ぐか、終わらせるか」で家族の言葉がすれ違う場面については、当事者の声を集めた継ぐか、終わらせるかもあわせてどうぞ。同じ「負担」という一語が、世代によって別のものを指していることがあります。

継ぐと決める前に、家族で確認しておく4つのこと

承継そのものは書類で終わりますが、詰まるのはたいてい書類の外側です。

  1. 次に誰へ渡すかを、今の時点で一度話しておく。承継は一度きりではありません。自分の子が別の姓になっていても、条文上は問題ありません。
  2. 管理料の額と支払い方法を確認する。滞納が続くと使用許可が取り消されることがあります。口座振替を利用している場合は、引き落とし口座の名義変更も必要になります。
  3. 嫁ぎ先の家族に先に伝える。実家の墓を継ぐことは、嫁ぎ先の法要や墓参の予定にも関わります。事後報告になると、内容ではなく順番が問題になります。
  4. 名義を変えずに放置しない。連絡先が届かないまま管理料が滞ると、無縁墓として扱われる可能性があります。「まだ決められない」ときこそ、施設へ現状を伝えておくほうが安全です。

よくある質問

嫁いで姓が変わった娘でも、実家のお墓を承継できますか。

法律上は可能です。民法897条にも東京都霊園条例にも、氏・性別・続柄の要件は書かれていません。書かれているのは「祖先の祭祀を主宰する者」であることだけです。ただし民営霊園・寺院墓地は使用規則で承継者の範囲を定めている場合があるため、その墓地の規則を必ず確認してください。

きょうだいで意見が割れたら、多数決で決まりますか。

決まりません。民法897条が定めているのは「祖先の祭祀を主宰すべき者」であることだけで、実務では原則として1人が承継すると解されています。決め方は、故人の指定があればその人、なければ慣習に従い、慣習が明らかでなければ家庭裁判所が定める、という順です。

娘の子(孫)に別の姓で引き継がれても大丈夫ですか。

条文上、承継は姓に紐づいていません。ただし民営・寺院の使用規則で親族の範囲が定められていることがあるため、次の代に渡す前提であれば、その墓地の規則を先に確かめておくと安心です。

夫の家のお墓と実家のお墓、両方は守れません。

実家側を永代供養へ移す、墓じまいをする、両家をまとめる、といった選択肢があります。いずれも遺骨を移すのであれば、改葬について市町村長の許可が必要です。まず双方の墓地の使用規則を確認したうえで、どちらの親族と先に話すかを決めるのが現実的です。

継がずに墓じまいをしたい場合、親族全員の同意書が要りますか。

国の省令(墓地、埋葬等に関する法律施行規則 第2条第2項)が定める添付書類は、①墓地等の管理者が作成した埋蔵の事実を証する書面 ②墓地使用者等以外の人が申請する場合は墓地使用者等の承諾書 ③その他市町村長が特に必要と認める書類——の3つで、親族全員の同意書は含まれていません。要るのは墓地使用者の承諾です。ただし書類として不要なことと、話しておかなくてよいことは別です。

名義変更をせずに放置すると、どうなりますか。

管理料の請求先が現使用者のままになり、連絡が届かない状態で滞納が続くと、使用許可の取り消しや無縁墓としての扱いにつながる可能性があります。承継するか決めきれない段階でも、施設へ状況を伝えておくことをおすすめします。

承継の手続きにはお金がかかりますか。

施設の定めによります。東京都立霊園の場合、承継許可に係る使用許可証の交付手数料は一件につき2,000円と条例の別表に定められています。民営霊園・寺院墓地は施設ごとに異なるため、直接ご確認ください。

参考・出典

本記事は上記の一次情報にもとづき、おくりノート編集部が作成しています。条例・使用規則は霊園ごとに異なり、改正されることもあります。実際の手続きの可否と必要書類は、必ず対象の墓地・霊園の窓口でご確認ください。本記事は法律相談ではありません。

監修
Okuri note編集部

Okuri note編集部

監修・編集

終活・お墓・散骨・永代供養に関する情報を、編集チームが調査・執筆しています。墓地埋葬法をはじめとする葬送関連法規の最新動向、各地の霊園データ、実際の利用者の声を継続的にリサーチし、初めて終活に向き合う方にもわかりやすい記事をお届けすることを目指しています。一部記事については行政書士などの専門家による監修も予定しています。

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