お盆が近づくと、親族が集まる食卓で、この話がふっと出ます。
「お墓、どうするの」。
そこから先は、たいてい噛み合いません。片方は「墓じまいなんて、お金も手間もかかるでしょう」と言い、もう片方は「今のうちに終わらせないと、子どもが困る」と言う。どちらも「負担」の話をしているのに、その言葉が指しているものが違う。だから話が進まないのです。
今回は、そのずれが見えるXの3つの声を並べてみました。先に、判断の土台になる数字をひとつだけ。終活協議会の2026年6月の調査(n=860)では、墓じまいの費用を「具体的に知らない」と答えた人が88.6%にのぼりました。一方で「自分の代でお墓を終わらせてもよい」に共感する人は61.1%。つまり多くの人が、いくらかかるかを知らないまま、終わらせてもいいと感じていることになります(回答者は終活ガイド資格の取得者で、終活への関心が高い層です。一般の人より墓じまいに前向きな数字が出ている可能性があります)。
声 ① ─ 「お金もだけど、労力が半端ない」
まず、墓じまいの前で立ち止まっている側の声です。
無縁仏になるようです。夫実家墓は夫の両親、他数名の御骨があるようですが(他の親族からの情報)私が顔を知ってる人は一人も居なくて。そして遠隔地。年の維持費他が25000円弱。墓じまいが、お金もだけど、労力が半端ない💦
この声の中心は、金額ではありません。「お金もだけど、労力が半端ない」——ここが本音です。年間2万5千円弱は払い続けている。それでも動けないのは、費用の問題ではなく手間の問題だと言っています。
実際、墓じまいの手間は費用の一覧表には出てきません。菩提寺や霊園への相談、遺骨の数の確認、埋葬証明書と受入証明書の取得、現墓地のある市町村での改葬許可申請、石材店の選定と現地立ち会い。遠方であれば、そのたびに移動が発生します。ここで挙がっている「顔を知ってる人は一人も居なくて」という一言も重い。思い入れのない墓のために、何度も遠方へ通うことになる。
手続きの全体像は墓じまいの手続き完全ガイド|必要書類と改葬許可申請の流れに、費用の内訳は墓じまいの費用相場|内訳と総額シミュレーションにまとめています。手間を「何回どこへ行くか」に分解しておくと、動けるかどうかの見通しが立ちます。
声 ② ─ 「地元に居ない子に、引継ぎの負担をかけたくない」
次は、自分の代で終わらせると決めた側の声です。
愉快な話しじゃない。僕は無宗教だ。ただ、親からの墓の管理は足らないながらしてきた。問題はこれから。地元にも居ない自分の子にその管理の引継ぎの負担をかけたくない。だから僕の代で墓じまいをするつもりだ。そして、自分の死んだ後の骨は渚滑川に散骨してくれと遺言を伝えるか残すつもりでいる
ここで語られている負担は、お金でも手間でもありません。「引継ぎ」です。自分は足らないながらも管理してきた。だが子は地元にいない。渡した瞬間から、子は同じ問いの前に立たされる——その構図そのものを負担と呼んでいます。
声①と並べると、ずれの正体がはっきりします。声①は「今動くコスト」を、声②は「渡したあとに相手が背負うコスト」を負担と呼んでいる。前者は自分の手元にある実感で、後者はまだ起きていない未来の話です。だから同じ食卓で話しても、どちらも譲らないまま平行線になります。
なお、散骨についてひとつだけ添えます。散骨そのものは禁じられていませんが、どこに撒くかで扱いが大きく変わります。川や湖は水質や漁業権への配慮から「避けるべき場所」に挙げられることが多く、海洋散骨とは前提が違います。遺言に書く前に、その川で引き受けてくれる事業者がいるか、自治体の条例で規制されていないかを確かめておくと、残された家族が迷いません。法律と条例の整理は散骨は違法?法律と手続きのすべてを解説にまとめています。
声 ③ ─ 「作るときは、墓じまいなんて考えもしない」
三つめは、まだ決めていない人の声です。
自分の代で墓じまいするか、夫さんも入って子どもたちに管理をお願いするか⋯いずれにせよ、墓じまいの時にかかる費用も聞いておいて、準備しておくのがマナーだと思うけど、作る時は墓じまいなんて考えもしないんだろね⋯ 子どもたちが墓を継ぐ気持ちがなさそうなら考えなきゃいけないですよね⋯
迷いながら、いちばん実務的なことを言っています。「墓じまいの時にかかる費用も聞いておいて、準備しておくのがマナー」。継ぐか終わらせるかを今決めなくても、金額だけは先に知っておく——これは声①と声②のどちらの立場でも取れる、唯一の共通の一手です。
そしてもう一行。「作る時は墓じまいなんて考えもしないんだろね」。ここに、この問題が家族のあいだで揉める根本があります。お墓を建てた世代は、たたむ日のことを想定していません。だから費用も手順も引き継がれず、判断だけが下の世代に回ってきます。
この方が挙げた選択肢は「自分の代で終わらせる」か「夫も入って子に管理をお願いする」の二つですが、実際にはその中間もあります。今の墓は残しつつ、次の代からは承継の要らない形に移すという段取りです。費用が出せないときの考え方は墓じまいのお金がないときの対処法に、承継者がいない場合の受け皿は永代供養とは|費用・種類・メリットを解説にまとめています。
司会者として ─ 「負担」を3つに分けて話す
3つの声が使っている「負担」は、それぞれ別のものでした。
- 声① = 手間の負担——遠方への移動、書類、立ち会い。今の自分にのしかかる
- 声② = 引継ぎの負担——渡した相手が同じ決断を迫られる。未来に発生する
- 声③ = お金の負担——いくらかかるか分からないから動けない。準備で減らせる
家族で話が噛み合わないとき、たいていこの3つを一語で混ぜているのが原因です。「負担をかけたくない」と言われて「お金は出すよ」と答えると通じないのは、相手が言っていたのが引継ぎの負担だからです。逆に「維持の方が楽でしょう」と言われて反発が起きるのも、その「楽」が手間の話に限られているからです。
提案はひとつだけです。「負担」という言葉が出たら、お金・手間・引継ぎのどれのことかを聞き返す。それだけで、話が結論ではなく事実に向かいます。そして事実のほうは、調べれば答えが出ます。年間の管理料はいくらか。墓じまいの見積もりはいくらか。手続きに何回行くことになるか。承継者がいなくなったとき、その霊園の規定はどうなっているか。
先ほどの調査には、もう一組の数字がありました。親から供養の話を持ちかけられた経験がある人は38.8%にとどまり、「切り出したいが切り出せていない」と感じている人が25.0%います。言い出せないまま時間が過ぎているのは、あなたの家だけではありません。
切り出したあとで、話が反対という形になることもあります。そのときにどこまでが法律の話でどこからが気持ちの話なのかは、墓じまいに親戚の同意は必要?反対される理由と円満に進める進め方に整理しました。「法的にできる」と「円満に済む」を分けて考えられると、対立が続きにくくなります。
編集部からの問いかけ
「継ぐか、終わらせるか」は、どちらが正しいという問いではありません。あなたが減らしたいのは、お金でしょうか。手間でしょうか。それとも、子どもが将来ひとりで決めなければならない時間でしょうか。
三つのうちどれを最も重く感じるかは、家族の中でも人によって違います。違っていることを先に確かめておけば、お盆の食卓は言い合いではなく相談になります。結論は、その日に出さなくてかまいません。
費用と手順から具体的に考えたい方は、あわせてこちらもご覧ください。
世代のあいだの温度差そのものを読みたい方は親はなぜ墓にこだわるのか ─ 団塊世代と次世代、供養の温度差、「継ぐ」という前提が崩れていく構造は「お墓を継ぐ」が消えていく、立場によって負担の重さがまるで違う実例は「義実家の墓」 ─ 嫁が背負わされた家族会議もどうぞ。
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※ 調査数値は一般社団法人 終活協議会/想いコーポレーショングループの調査(2026年6月1日〜30日・回答者860名)によります。回答者は終活ガイド資格検定3級・2級の取得者で、終活への関心が高い層に偏っている点にご留意ください。
※ 費用・管理料の金額は霊園・寺院ごとに大きく異なります。本文中の金額は投稿者ご本人が述べた実額であり、相場を示すものではありません。契約前に各霊園の公式資料と見積もりでご確認ください。






