墓じまいとは
墓じまいとは、現在あるお墓を撤去し、遺骨を別の場所(改葬先)に移すことをいいます。正式には「改葬(かいそう)」と呼ばれる手続きの一環で、墓石を解体・撤去したあと、墓地の区画を更地にして管理者へ返還するまでの一連の作業を指します。
近年、墓じまいを選ぶ方が急増しています。その背景には次のような社会的な変化があります。
- 少子高齢化:お墓を継ぐ子どもや孫がいない、あるいは少ないケースが増えています
- 都市部への人口集中:実家から遠く離れた場所に住んでおり、お墓の管理に通えない方が多くなっています
- 価値観の変化:「先祖代々のお墓を守るべき」という意識が薄れ、合理的な供養の形を求める方が増えています
- 経済的な負担:年間の管理費や修繕費が家計を圧迫するという声も少なくありません
厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、改葬件数は2010年代後半から右肩上がりで増加し、2020年代には年間15万件を超える水準となっています。これは10年前と比べて2倍以上の数字です。今後もこの傾向は続くと見込まれており、墓じまいはもはや特別なことではなく、多くのご家庭にとって現実的な選択肢のひとつになっています。
墓じまいの費用相場
墓じまいにかかる費用は、総額で30万〜300万円程度が一般的な目安です。金額に大きな幅があるのは、お墓の大きさや立地、改葬先の種類によって費用が大きく変わるためです。ここでは主な費用項目ごとに相場をご紹介します。
墓石撤去費(10万〜30万円)
墓石を解体し、区画を更地に戻すための工事費用です。一般的な目安は1平方メートルあたり8万〜15万円程度とされています。
条件 | 費用目安 |
|---|---|
一般的な区画(1〜2平方メートル) | 10万〜30万円 |
大型の区画・墓石が複数ある場合 | 30万〜50万円以上 |
山間部など重機が入れない場所 | 割増料金が発生する場合あり |
石材店によって料金体系が異なるため、必ず2〜3社から見積もりを取ることをおすすめします。
離檀料(3万〜20万円)
離檀料とは、寺院の檀家をやめる際にお寺へ納めるお布施のことです。法律上の支払い義務はありませんが、長年お世話になった感謝の気持ちとしてお渡しするのが一般的です。
- 相場:3万〜20万円が多い(法要1回分の目安)
- 注意点:まれに高額な離檀料を請求されるケースがあります(後述のトラブル対策を参照)
- 公営霊園や民営霊園の場合は、離檀料は不要です
改葬先の費用(合祀墓3万円〜、納骨堂30万円〜、樹木葬20万円〜)
遺骨の新しい安置先にかかる費用は、供養の形によって大きく異なります。
改葬先の種類 | 費用目安 | 特徴 |
|---|---|---|
合祀墓(永代供養墓) | 3万〜30万円 | 最も費用を抑えられる。他の方の遺骨と一緒に納骨される |
樹木葬 | 20万〜80万円 | 自然に還れるという考え方で人気が高まっている |
納骨堂 | 30万〜150万円 | 屋内施設で天候に左右されず参拝できる |
散骨(海洋散骨など) | 3万〜30万円 | 海や山に遺骨を撒く。許可が必要な地域もある |
手元供養 | 数千円〜10万円 | 自宅で遺骨の一部を保管する |
新しいお墓を建てる | 100万〜300万円 | 従来型の墓石を新たに購入する場合 |
総額の目安(30万〜300万円)
すべての費用を合計すると、おおよそ次のような目安になります。
パターン | 総額の目安 |
|---|---|
合祀墓に改葬する場合 | 30万〜80万円 |
樹木葬に改葬する場合 | 50万〜150万円 |
納骨堂に改葬する場合 | 60万〜200万円 |
新しいお墓を建てる場合 | 150万〜300万円以上 |
費用を抑えたい場合は、合祀墓や散骨を検討されるとよいでしょう。一方、個別のお参りの場を確保したい方には、樹木葬や納骨堂が適しています。
墓じまいの手続きと流れ
墓じまいには法的な手続きが必要です。スムーズに進めるために、以下の6つのステップを順番に確認しましょう。全体の期間は2〜6か月程度が目安です。
ステップ1:親族への相談・合意
墓じまいで最も大切なのは、事前に親族としっかり話し合うことです。お墓は一人のものではなく、親族全員に関わる問題です。
- 墓じまいを考えている理由を丁寧に説明する
- 遺骨の行き先について全員の意見を聞く
- 費用の負担割合についても事前に決めておく
- 可能であれば書面で合意内容を残しておくと安心です
親族の理解を得ずに進めると、のちのちトラブルになることがあります。時間がかかっても、丁寧な説明と合意形成を心がけましょう。
ステップ2:改葬先の決定
遺骨の新しい安置先を決めます。改葬先が決まらないと、行政手続きに必要な「受入証明書」が取得できません。
- 希望する供養の形(合祀墓・樹木葬・納骨堂など)を絞り込む
- 複数の施設を見学し、料金・立地・管理体制を比較する
- 契約時に「受入証明書」(または「永代使用承諾証」)を発行してもらう
ステップ3:改葬許可申請(市区町村に受入証明書+埋葬証明書を提出)
墓じまいには、現在のお墓がある市区町村の役所で「改葬許可証」を取得する必要があります。これは法律(墓地、埋葬等に関する法律)で定められた手続きです。
必要な書類:
- 改葬許可申請書:役所の窓口またはホームページからダウンロードできます
- 埋葬証明書(または埋蔵証明書):現在のお墓の管理者(寺院・霊園)に発行してもらいます
- 受入証明書:改葬先の施設に発行してもらいます
- 申請者の身分証明書のコピー
書類がそろったら役所に提出し、「改葬許可証」を受け取ります。手数料は自治体によって異なりますが、無料〜数百円程度のところがほとんどです。
ステップ4:閉眼供養(魂抜き)
お墓を撤去する前に、僧侶にお経をあげていただき、お墓に宿る魂を抜く儀式を行います。これを「閉眼供養」「魂抜き」「お性根抜き」などと呼びます。
- お布施の目安:1万〜5万円程度
- 宗教的な儀式であり法律上の義務ではありませんが、多くの方が行っています
- 無宗教の方や、宗教的儀式を希望しない場合は省略することも可能です
ステップ5:墓石の撤去・更地化
閉眼供養が終わったら、石材店に依頼して墓石を撤去し、区画を更地に戻します。
- 工事期間は通常1日〜数日程度
- 撤去した墓石は石材店が適切に処分します(産業廃棄物として処理)
- 工事完了後、墓地の管理者に区画を返還します
- 返還時に「永代使用権」の解約手続きが必要な場合もあります
ステップ6:遺骨の改葬
取り出した遺骨を、新しい安置先に納めます。
- 改葬先に「改葬許可証」を提出します
- 納骨の際に開眼供養(魂入れ)を行う場合もあります
- 古い骨壺から新しい骨壺に移し替えが必要な場合があります
- 遺骨の状態によっては、乾燥や粉骨の処理が必要になることもあります
墓じまいの補助金・助成金制度
あまり知られていませんが、自治体によっては墓じまいに対する補助金や助成金制度を設けているところがあります。経済的な負担を少しでも軽くするために、ぜひ確認しておきましょう。
補助金制度の概要
- 補助金額:5万〜20万円程度(自治体により異なる)
- 対象:市区町村内にある墓地からの改葬、管理が困難な無縁墓の整理など
- 条件:自治体ごとに異なるが、「住民であること」「市内の墓地であること」などの要件がある場合が多い
申請の流れ
- お住まいの市区町村の役所(環境課・市民課など)に問い合わせる
- 補助金制度の有無と申請要件を確認する
- 必要書類をそろえて申請する(改葬許可申請と同時に進められる場合もある)
- 審査・承認後、補助金が交付される
注意点として、補助金制度は予算に限りがあるため、年度途中で受付を終了する場合があります。検討中の方は早めに問い合わせることをおすすめします。また、すべての自治体で制度があるわけではありませんので、まずはお住まいの地域に制度があるかどうかを確認してください。
墓じまいでよくあるトラブルと対策
墓じまいは人生で何度も経験することではないため、思わぬトラブルに巻き込まれるケースがあります。事前に知っておくことで、多くのトラブルは防ぐことができます。
離檀料トラブル
最もよく報告されるトラブルのひとつが、お寺から高額な離檀料を請求されるケースです。
- 「離檀料として100万円以上を要求された」という相談事例が各地の消費生活センターに寄せられています
- 法律上、離檀料の支払い義務はありません。あくまでお布施(任意の寄付)です
- まずは住職と誠意をもって話し合い、感謝の気持ちを伝えながら適切な金額を相談しましょう
- 話し合いで解決しない場合は、自治体の相談窓口や弁護士に相談することをおすすめします
- どうしても埋葬証明書を発行してもらえない場合は、役所に相談すれば代替手段を案内してもらえます
親族間の合意形成
「墓じまいに反対する親族がいる」というトラブルも少なくありません。
- お墓に対する思い入れは人それぞれ異なります。まずは反対する理由を丁寧に聞くことが大切です
- 「お墓をなくす」のではなく「より良い形で供養を続ける」ことを伝えると理解を得やすくなります
- 改葬先の見学に一緒に行くなど、具体的なイメージを共有する工夫も効果的です
- 相続に関わる問題が絡む場合は、専門家(行政書士・司法書士)への相談も検討しましょう
悪質業者への注意点
墓じまいの需要増加に伴い、残念ながら悪質な業者も出てきています。
- 極端に安い見積もりで契約させ、あとから追加料金を請求するケース
- 工事が雑で、墓地の原状回復が不十分なまま引き渡されるケース
- 遺骨の取り扱いが不適切なケース
対策:
- 必ず複数の業者から見積もりを取り、金額と作業内容を比較する
- 石材店の実績や口コミを事前に確認する
- 契約書の内容(作業範囲・追加料金の有無・工期)をしっかり確認する
- 地元の石材商工組合に加盟している業者を選ぶと安心です
- 不安な場合は、墓地の管理者(寺院・霊園)に信頼できる業者を紹介してもらう方法もあります
まとめ
墓じまいは、故人への敬意を大切にしながら、現実的な課題を解決するための前向きな選択肢です。最後に、この記事の要点を整理します。
- 墓じまいとは、お墓を撤去して遺骨を別の場所に移すこと。少子高齢化や遠方管理の負担を背景に、年間15万件を超えるまで増加しています
- 費用の総額は30万〜300万円が目安。改葬先の選び方で大きく変わります。合祀墓なら30万円台から可能です
- 手続きは6ステップ。特に親族との合意形成と、市区町村での改葬許可申請が重要です
- 補助金制度がある自治体もあります。5万〜20万円程度の補助を受けられる場合があるので、事前に確認しましょう
- トラブル防止のために、離檀料の相場を知り、複数業者から見積もりを取り、親族との話し合いを丁寧に行うことが大切です
墓じまいは決して急いで進めるものではありません。ご家族でしっかりと話し合い、納得のいく形で進めていただくことが何より大切です。わからないことがあれば、お住まいの自治体の窓口や、信頼できる石材店・専門家に気軽に相談してみてください。



