墓じまいを考え始めて、いちばん多く聞く言葉があります。
「親戚に反対された」。
費用の見積もりも、改葬先の候補も、自分の中では固まっている。それでも、親族の一人が「勝手に決めるな」と言った瞬間に話が止まる。ここで多くの方が、「法律的に、親戚全員の同意がないと墓じまいはできないのだろうか」と検索します。
結論から書きます。改葬(=墓じまいをして遺骨を移すこと)の許可申請に、「親族全員の同意書」を求めている自治体の書類は、確認したかぎり見当たりません。ただし、それは「同意がなくても円満に済む」という意味ではありません。この記事では、法律上どこまでが必要で、どこからが人間関係の問題なのかを分けて整理します。
なぜ親戚は墓じまいに反対するのか(7つの理由)
反対の理由は感情論に見えて、実は型があります。相手がどの型なのかが分かると、返す言葉も変わります。
- 先祖・故人への愛着——「まだ通えるのに、なぜ壊すのか」。理屈より先に情が動いている状態です
- 宗教・慣習への不安——菩提寺との関係が切れることや、供養が途絶えることへの心配
- 費用負担への不安——「その費用は誰が出すのか」。自分に請求が来るのではという警戒
- 自分の代で絶やす罪悪感——反対している本人が、実は最も苦しんでいる型
- 世間体・親族の目——「あの家は墓を捨てた」と言われたくない
- 墓守の役割を失うこと——掃除や管理を担ってきた人にとって、役割そのものの喪失
- 事前の相談がなかったことへの反発——中身ではなく進め方に怒っている
経験上、最も再発しやすい火種は7番目です。「決めたので報告します」と伝えた瞬間に、内容の是非とは無関係に反対が始まります。逆に言えば、7番目は進め方を変えるだけで防げる唯一の理由でもあります。
法律上、墓じまいに「親族全員の同意」は必要か
墓じまいは、法律上は「改葬」という手続きです。厚生労働省の「墓地、埋葬等に関する法律の概要」によれば、改葬を行うには市町村長の許可が必要とされています。つまり、家族が話し合って決めれば済むものではなく、行政の許可という関門があります。
では、その許可を得るために何を出すのか。実際の自治体の案内を2つ見てみます。
京都市の案内では、申請者は原則として墓地使用者です。そして、墓地使用者の代理人が申請を代行する場合は「委任状」、墓地使用者以外が申請者になる場合は「墓地使用者からの承諾書」が必要とされています。提出書類は改葬許可申請書(3枚1セット)と、該当する場合の委任状または承諾書です。手数料については「手数料はかかりません。無料です。」と明記されています。
福岡市の案内では、必要なものとして「改葬許可申請書(2部)」「申請者の印鑑(申請書に記名押印している場合)」「委任状(第3者が窓口で申請する場合)」が挙げられています。いずれのページにも、親族の同意書・承諾書を求める記載はありません。
ここから読み取れることを、正確に書きます。
- 求められているのは「親族全員の同意」ではなく「墓地使用者の承諾」です。申請者が墓地使用者本人なら、その承諾は自分自身の意思で足ります
- 逆に、墓地使用者ではない人が進めようとすると、墓地使用者の承諾書という形で壁になります。「叔父が墓地使用者なのに、自分が話を進めている」というケースがまさにこれです
- ⚠ これは京都市・福岡市の2例です。自治体によって様式や添付書類は異なりますので、必ずお住まいの、そして今のお墓がある市区町村の窓口でご確認ください
そのうえで、大事な留保をひとつ。「法的にできる」ことと「円満に済む」ことは別です。書類が揃えば許可は下りるとしても、無断で進めれば親族との関係は壊れ、菩提寺があれば離檀をめぐる話にも発展します。法律は最低線を決めているだけで、家族の納得までは面倒を見てくれません。
改葬許可申請の具体的な流れと必要書類は墓じまいの手続き完全ガイド|必要書類と改葬許可申請の流れ、申請書の書き方は改葬許可申請書の書き方|記入例と注意点にまとめています。
では誰が決められるのか ─ 民法897条と祭祀承継者
「墓地使用者」とは、多くの場合そのお墓を継いだ人=祭祀承継者です。お墓や仏壇といった祭祀財産の承継は、民法897条が定めています。条文はこうです。
第1項「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」
第2項「前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。」
読み方のポイントは3つあります。
- 順番は「指定 → 慣習 → 家庭裁判所」。条文は慣習を本文に置き、ただし書きで「被相続人の指定があればその者」と定めているため、結果として故人の指定が優先します
- 相続財産とは別枠です。「前条の規定にかかわらず」と書かれており、遺産分割の対象として頭数で分けるものではありません
- 条文が定めているのは「祖先の祭祀を主宰すべき者」であることだけです。実務では原則として1人が承継すると解されています。つまり多数決ではありません
だからこそ、反対している親戚が「自分にも決める権利がある」と考えていても、法的な位置づけは異なることがあります。ただしそれを相手に言えば済む、という話にはなりません。承継者が決まっていない・誰なのか争いがある場合は、家庭裁判所に祭祀承継者の指定を求める道もありますが、そこまで行くと関係修復はかなり難しくなります。
反対されやすい5つのケースと、その火種
実際に揉めるのは、次の5つに集約されます。それぞれ「先回りの一言」を添えます。
- 費用の分担でぶつかる——「誰がいくら出すのか」が曖昧なまま話し始めるパターン。先回り: 「費用は基本的にこちらで負担するつもりです。そのうえで相談させてください」
- 遺骨の行き先への不安——合祀(他の方と一緒に埋葬)は原則あとから取り出せません。ここを知らされずに合祀と聞くと強い抵抗が出ます。先回り: 取り出せる形と取り出せない形の違いを先に説明する
- 菩提寺との関係——離檀の話、お布施の話。先回り: 住職に先に相談し、その内容を親族に伝える(→離檀料トラブルの実態と対処法)
- 分家・遠縁が後から出てくる——「聞いていない」が最大の反発理由になる型。先回り: 連絡すべき範囲を先に書き出して、抜けを作らない
- 墓守を担ってきた人の心情——掃除や供花を続けてきた人ほど、役割の喪失として受け取ります。先回り: これまでの労をまず言葉にする
反対を防ぐ・和らげる進め方(相談の順番)
順番を変えるだけで、同じ内容でも通りやすくなります。
- 早めに、口頭で相談する——決定の報告ではなく相談として入る。文書やLINEの一斉連絡から始めない
- 反対の理由を最後まで聴く——遮らない。7つの型のどれなのかを見極める時間だと考える
- 受け入れ先と費用の見通しを具体で示す——「どこに移すか」が見えないと、相手は「捨てる」と受け取ります
- 合意した内容を簡単な書面に残す——契約書のような堅いものは不要。誰が何に合意したかを1枚にする
お盆や法要など、親族が自然に集まる場は相談の機会として有効です。ただし、その場で結論を出そうとしないこと。「今日決めたい」という空気が、7番目の火種(進め方への反発)を呼びます。
それでも反対されたときの対処法
当事者同士で平行線になったら、第三者を挟むのが定石です。
- 菩提寺の住職——宗教的な不安が理由の場合、いちばん効きます
- 行政書士・司法書士——書類と手続きの説明を、身内以外の口から伝えてもらう
- 弁護士・弁護士会の法律相談——権利関係で争いになっている場合。各地の弁護士会が法律相談窓口を設けています
- 自治体の無料法律相談——多くの市区町村が定期的に実施しています
- 家庭裁判所の祭祀承継者指定——承継者が決まらない・争いがある場合の最後の道
コツは、感情の対立と法律論を同じテーブルに載せないことです。「法的にはこちらに決定権がある」と言い切った瞬間、話し合いは終わります。法律は自分の足場を確認するために使い、相手に向けては使わない。これが一般的な進め方です。個別の事情によって判断は変わりますので、具体的な権利関係の判断は専門家にご相談ください。
費用と「誰がいくら負担するか」の考え方
費用の負担割合について、法律上のルールはありません。承継者が全額負担する家もあれば、兄弟で按分する家もあります。決まりがないからこそ、先に話し合っておく価値があります。
費用の項目 | 負担することが多い人 | 話し合いのポイント |
|---|---|---|
墓石の撤去・整地 | 墓地使用者(承継者) | 見積もりを複数取り、内訳を共有する |
閉眼供養のお布施 | 墓地使用者(承継者) | 金額の目安を菩提寺に直接確認する |
改葬許可申請の手数料 | 申請者 | 自治体により異なる(京都市は無料と明記) |
新しい受け入れ先の費用 | 遺骨を引き継ぐ人 | 誰の遺骨をどこに移すかで負担者が変わる |
親族の交通費・宿泊費 | 各自が多い | 遠方の親族に立ち会いを求めるなら先に相談 |
金額のレンジと内訳は、検証済みの費用ページにまとめています。この記事では相場の数字は扱いませんので、あわせてご覧ください。
移し先の選択肢そのものを知りたい場合は永代供養とは|費用・種類・メリットを解説、承継者がいないケースは一人っ子のお墓問題|承継者がいないときの選択肢が入口になります。
よくある質問
墓じまいに親戚全員の同意は法律上必要ですか?
確認した自治体(京都市・福岡市)の改葬許可申請の必要書類に、親族全員の同意書は含まれていませんでした。求められるのは、墓地使用者以外が申請する場合の「墓地使用者の承諾書」です。ただし無断で進めると人間関係や離檀のトラブルにつながるため、相談は事実上欠かせません。自治体によって様式が異なるため、必ず窓口でご確認ください。
反対している親戚がいても改葬許可はおりますか?
改葬許可は、必要書類が揃っていれば市町村長が交付するものです。親族が反対しているという事実そのものが、書類として求められているわけではありません。ただし運用は自治体ごとに異なるため、窓口で確認してください。許可が下りることと、親族が納得することは別の問題です。
お墓を継ぐ人(祭祀承継者)は誰が決めるのですか?
民法897条により、①故人の指定があればその人、②なければ慣習に従う人、③慣習が明らかでなければ家庭裁判所が定める、という順で決まります。相続財産とは別枠です。条文が定めているのは「祖先の祭祀を主宰すべき者」であることだけで、実務では原則として1人が承継すると解されています。頭数の多数決ではありません。
親戚に反対されないための一番のコツは何ですか?
「決めたので報告します」ではなく「相談させてください」で入ることです。反対の理由として最も再発しやすいのが、内容ではなく事後報告という進め方への反発です。そのうえで、受け入れ先と費用の見通しを具体的に示すと、「捨てる」ではなく「移す」として伝わります。
話し合いがどうしてもまとまらないときはどうすればいいですか?
菩提寺の住職、行政書士、弁護士会や自治体の法律相談など、第三者を挟むのが一般的です。祭祀承継者が決まらない場合や争いがある場合は、家庭裁判所に指定を求める道もあります。感情の対立と法律論を切り分け、法律は自分の足場の確認に使うのが穏当です。
費用は誰が払うべきものですか?
法律上の決まりはありません。実務では墓地使用者(承継者)が中心に負担する例が多いものの、兄弟で按分する家もあります。決まりがないぶん、先に分担を相談しておくと後の揉め事を防げます。
親族のあいだの温度差を、当事者の声から読む
制度の話とは別に、「同じ家族なのに、なぜここまで受け取り方が違うのか」を知りたい方もいると思います。当サイトの「私たちの供養」では、実際のX投稿をもとに立場の違いを並べています。
- 「義実家の墓」 ─ 嫁が背負わされた家族会議——立場によって負担の重さがまるで違う例
- 親はなぜ墓にこだわるのか ─ 団塊世代と次世代、供養の温度差——世代で「当たり前」が違う理由
- 継ぐか、終わらせるか ─ 同じ「負担」という言葉が、家族の中でずれていく——「負担」という同じ一語が、家族の中で別のものを指している例
まとめ
- 改葬には市町村長の許可が必要だが、確認した自治体の必要書類に「親族全員の同意書」はない
- 求められるのは墓地使用者の承諾。自分が墓地使用者かどうかで難易度が変わる
- 決定権の所在は民法897条(指定→慣習→家庭裁判所)で、多数決ではない
- それでも「法的にできる」と「円満に済む」は別。相談の順番を守るのが最短の道
- 費用の分担に法律上のルールはない。先に決めておくほど揉めない
反対されている状況は苦しいものですが、多くの場合、相手が反対しているのは「墓じまい」そのものではなく「置いていかれること」です。順番を変えるだけで通る話は、思っているより多くあります。
参考・出典
- 厚生労働省「墓地、埋葬等に関する法律の概要」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130181.html)
- e-Gov 法令検索「墓地、埋葬等に関する法律」(https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000048)
- 京都市「改葬許可申請の手続について」(https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000246769.html)
- 福岡市「改葬許可申請の手続きについて」(https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/seikatsueisei/life/kurashinoeisei/kaisou.html)
- 東京弁護士会「(11)祭祀承継者」(民法897条の解説)(https://www.toben.or.jp/know/iinkai/houritsuservice/syukatu/post_30.html)
- 国民生活センター「お墓・墓じまいに関する相談」(相談窓口)(https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/sougi.html)
※ 本記事は一次情報にもとづき編集部が作成しています。自治体の必要書類・手数料は京都市・福岡市の案内を2026年8月に確認したもので、様式や取り扱いは自治体によって異なります。手続きの前に、お墓のある市区町村の窓口で必ずご確認ください。また、個別の権利関係の判断は弁護士等の専門家にご相談ください。






